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暗闇の中での会話 [impressions]

昨日、ダイアログインザダークを体験してきた。
広尾の旧自治大学校跡で行われている「D-HAUS」というイベントの
アトラクションのひとつだ。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは、日常生活のさまざまな環境を織り込んだまっくらな空間を、
聴覚や触覚など視覚以外の感覚を使って体験する、ワークショップ形式の展覧会です。
(ダイアログインザダーク公式HPより)

つまり。
本当に何も見えない暗闇の中で、日常生活によくある物を触ったり、
日常生活の中で普通に行っていることを経験したりするのです。

この暗闇、ほんまもんの暗闇で本当に何も見えない。
自分の手すら見えない。
ある意味、視覚障害者の方が日々過ごしている世界と言えるのかもしれません。
感じるのは音と匂いと気配だけ。
当然今までの人生の中で体験したことのない状況なわけで、
体験したことのない感覚が得られるわけです。
さあ、どんな感じなんだろう、想像してみたけど果たしてそのとおりなのか。

ここから先は詳しいこと書きますので、これから参加してみよう、
まったくの白紙状態でやってみたいと思う人は読まないでくださいネ。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ダイアログインザダークを体験するにあたり、こういう人は参加できません、という決まりがある。
どんなものだったかはっきりとは忘れてしまったが、自分が体験した上でいうならば、
・暗闇を恐れる気持ちがある人
・パニックを起こしやすい人
は参加しないほうがいいだろう。それほど異次元だったからだ。

暗闇の案内人は、視覚障害者の方。ガイドをしてくれるこの彼が頼りだ。
白杖を持ち暗闇の中に足を踏み入れる。
手すりを頼りにしばらく歩くが、そのうち手すりが壁に変わり、遂にはその壁も消えてしまう。
周りに触れることができるものが何もない暗闇。方向感覚もなく、取り残されそうな恐怖。
暗闇の圧迫感。軽くパニックになっていることを認識。

声がする方向に来てくださいといわれても、どっちから声が聞こえてきているのか
声の主からどのくらいの距離があるのか、つかめない。
日常生活の中で、主に視覚を頼りに生きていることを実感した。
杖がなかったらとてもじゃないが歩くことはできない。

歩くうちに足元がフワフワしていることに気づく。
そこは森の中で、虫の声や小川のせせらぎが聞こえ、
足元に降り積もった葉っぱから森のにおいがした。
丸太でできた橋や、つり橋を渡るが、この心もとないこと。
どこにあるかもわからないので、前の人の背中に頼る。

森の先には竹林やトンネルがあり、そこを抜けると街ゾーンだ。
点字ブロックを頼りに階段を登って降りて、駅のホームに出る。
本当にホームのようになっていて、杖で探ると途中から地面がないのがわかる。
どのくらいの落差かは知るよしも無いが、とにかく危険なものだとわかる。
点字は、縦に長いものと点々のものがあるが、
縦に長いものはその先にも続いているというしるし、
点々のものは危険があるというしるしだそうだ。
足の裏で感じる点字を頼りにするも、感覚が鈍いのかよくわからない。
縦型のものより点々のほうが比較的わかるという感じか。

公園に入り、ブランコに乗る。
このブランコの感覚は、非常に印象的だった。
宙を浮かんでいるとしか言いようがない。方向感覚が無いのだ。
そんなに大きくは振れていないはずなのに、
前に向かっているのか、空に向かっているのかわからない。
目を閉じてブランコに乗るのとはわけが違う。滅多に出来ない経験をした。

テーブルの上になにかが乗っている。
野菜だ。
にんじんやサツマイモは想像がついたが、キャベツが意外にびっくりした。
触ることが出来なかったが、ブロッコリーもかなりインパクトがあったらしい。

その後バーに入り、飲み物を振舞われる。
メニューはソフトドリンクとワインとビール。わたしはワインを注文した。
バーテン役の方も視覚障害者で、ガイドさんと二人飲み物を用意している。
見えるわけではないが、スムーズな動作に驚いた。
飲み物を運んでくるとき、「右側からおきます」「左側からおきます」と言って
テーブルに置くのだが、その行動が素早い。
暗闇で、テーブルに置いたグラスにビールやワインを注ぐことは高度なテクニックだ。
ワインやジュースは量を重さで測るようだが、ビールには泡がある。
グラスからこぼれぬように注ぐのは、長年の経験で培ったものらしい。
飲んだワインは白のドイツワインだったが、一瞬「これはワインではない」と思うほど
甘く感じた。

暗闇の中での体験はこれで終了したが、そのあと少し話をした中で印象に残ったこと。

ガイドの彼は、生まれてすぐに目が見えなくなり、色を知らない。
だから、わたしたちが体験した暗闇と、自分が普段いる世界が同じものなのかは分からないと言っていた。

駅の券売機で、タッチパネル式のものは使うことが出来ないで困っている。
押す場所が分からないから・・・
確かにそうだ。こういうところにも、バリアフリーになりきれない日本という国が見える。

わたしが感じたこと。

もちろん初めての環境だったので、自分が感じていることは驚きの連続だったが、
何より一番印象的だったのは、ガイドをしてくれた彼だった。
明るくユーモアがあり、ガイドとして非常に優秀だった。

普段目が見えているとき、障害を持つ人と接すると、構えてしまう自分がいる。
だが、同じハンデキャップをもって同じ場所に立ったとき、何も自分と変わるところの無い
一人の人間なんだということを強く感じた。
そして、普段どれだけ視覚に頼った生き方をしているか、見えるもので何かを区別したり
決め付けたりしていることを感じざるを得なかった。

こういう経験をすることで、物質的だけでなく精神的なバリアフリーを
目指していくことが最終的な目的であり、それがこのイベントの意義だと感じた。

最後に。
このイベントはとても、広尾の街に似合っている。
広尾にはいろんな国の人が暮らしていて、いろんな顔をした人が歩いてる。
広尾ってただ歩いているだけで楽しい。

何でかよくわからないけどそう思った。


有栖川記念公園の紅葉。


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コメント 3

はるるん

貴重な体験でしたね。滅多にできないですね。私も真っ暗は怖いので苦手です。先がわからないという恐怖・・想像しただけでだめですね。
でも、視覚障害者の方は常にそうだということを忘れがちになってしまいます。改めて考える事が出来ました。
by はるるん (2005-11-20 15:43) 

kanamixx

とても興味深く読ませていただきました。
いちばん印象に残ったのは、ワインが甘く感じられた・・・ってことでした。
私はこういう体験をしたことはないのですが、なんとなくわかるような、わからないような・・・。
普通ってんだろう? 不自由ってなんだろう?
と考えてしまいました。

それにしても、公園があり、バーがあり、なんてすごいですね。
ホント、貴重な体験ですね。
by kanamixx (2005-11-22 00:40) 

ayupot

はるるんさん、kanamixxさん、コメントありがとうございます。

参加したきっかけは単純に純粋な好奇心だけでしたが、
参加してよかったなと思います。
劇的に価値観が変わったりしたわけではないですが、
知るだけでもいいのかな、というような世界でした。
こうやって細かく書くと、ある意味ネタバレなので、
いいのかな~とも思ったんですけど、自分の経験したことを
書きたかったのです。

子供が体験したら、大人とはまた違った感覚で受け止めるかも
しれないなって思います。
ただ、結構な異次元なので、子供によってはパニックになるかもしれないし、
そこは難しいところですね。
by ayupot (2005-11-22 06:50) 

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